……。
母親 あーら、いやですわ。あれはあたしが動物学の暗誦《あんしょう》をしていたんですわ。
父親 (飯を頬張りながら)動物学だって。
母親 ええ。つまり、斧足類の動物と申しますと、蛤だの、蜆だの、あさりだの、それから赤貝やばか貝でございますの。
父親 なあんだ。御馳走じゃなかったのかい。それは一向《いっこう》つまらんねえ。(気をかえて)しかし、なぜお前が赤貝やばか貝を暗記する必要があるんだ。
母親 あなたア! あ、あ、あなたア!
父親 ななな、なあんだ。急に、か、金切《かなき》り声《ごえ》など出しやがって。
母親 失礼いたしました。ではございますが、あなたは道夫に対し、たいへん冷淡《れいたん》でいらっしゃいます。道夫が、あの通り受験準備のため、好きなレコードをきくことさえよしていますのに、あなたは道夫の入学試験のことを、ちっとも心配しておやりにならないんですもの。
父親 冗談いうな。俺はどんなにか心配を――。
母親 まあ、あたくしの申すことをお聞きあそばせ。あたくしなんか、道夫と一緒になって受験勉強をしているのでございますよ。頭足《とうそく》類、腹足《ふくそく》類、斧足《ふそく》類
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