たことなんです。右策は、それを学者ですからよく知っているのです。だから、あたしが今、妊娠したとしたら、その場であたしの素行《そこう》を悟《さと》ってしまいます」
「だが、僕の子だかどうか判らないとも云える……」
「莫迦《ばか》なことをおっしゃいますな。生れてきた胎児《たいじ》の血液型を検査すれば、それが誰の胤《たね》であるか位は、何の苦もなく判ってよ、それに貴方《あなた》は右策《うさく》とは切っても切れない患者と主治医《しゅじい》じゃありませんこと。あなたの血液型なんかその喀痰《かくたん》からして、もう夙《とっ》くの昔に判っていることでしょうよ」
「ああ、それでは貴女はこれからどうしようというのです。この僕をどんな目に遭《あ》わせようとするのです」
「あたしは、貴方との間にできた坊やを、大事に育てたいんです。あたしは、もうすっかり決心しているのよ。右策《うさく》がこのことに気付いたときは、出て行けというなら出て行くし刑務所へ送りこんでやろうというなら送りこまれもする。しかしいつか、あたしは自由の身となって、坊やと二人で貴方があたしのところへ帰ってくるのを待つんです」
「ウン判った。さては生れる子供を証拠にして、僕の財産をすっかり捲きあげようというのだな。金ならやらぬこともない。だが、交換条件だ、その胎児を××しまって下さい」
「ほほほ、そううまくは行きませんことよ。お金よりも欲しいのは貴方です。この子供が生きている間は、貴方はあたしの懐《ふところ》から脱けだすことができないんですわ。あたしは、あなたの地位を傷《きずつ》けなくてすむもっとよい方法も知っていますのよ。だけど、どうあっても貴方を離しませんわ。貴方はあたしの思うままに、なっていなければならないんですわ。背《そむ》けば、貴方の地位も名声もたちまち地に墜《お》ちてしまいますよ。あたしがしようと思えば、ね。だがそれまでは、貴方は無事に生きてゆかれるのよ。貴方の生命は、一から十まで、みんなあたしの掌《て》の中《うち》に握られてしまってるのよ、今になってそれに気のついた貴方はどうかしてやしない……」
「……」
「アッ、貴方は短銃《ピストル》を握っているわね。あたしを殺そうというのでしょう。ええ判っているわ。でもお気の毒さまですわね。あたしを殺したら、その翌日と言わず、貴方は刑務所ゆきよ。貴方はあたしが殺されたときのこ
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