てその上に、やはり真白な毛布にくるまった一人の若い紳士が横たわっていたのである。その紳士の胸のところには、黒い風呂敷に包んだ骨壺の箱ほどの大きなものを首からぶら下げていた。
「もしもし、あなた。こんなところであなたは病院の夢を見ておいでなんですか。それとも病院から放りだされた……」
「く、苦しい。た、助けてくれイ……」
 藁蒲団の上の若紳士は、袋探偵の質問をみなまで聞かずに、救いをもとめた。
「た、助けてあげましょうが、一体あなたはどうした状況の下にあるんですか。どこの病院から出て来られたんですか」
 袋探偵は顔を真赤にして訊《き》いた。
「病院……病院へ、これから行きたいのだ。早く連れてってくれ」
「ごもっともです。しかし一体あなたはどういう事情でこのような軒下に藁蒲団を敷き、そして……」
「人殺しッ!」若紳士は意外な叫声《さけびごえ》をあげた。
「ええっ。わしは君を殺すつもりはない」
「盗まれたッ。盗まれちまったんだ、僕の心臓を盗んでいきやがったんだ」
「なに、心臓を盗まれた。それは容易ならぬ出来事だ。あなたは心臓を盗まれたというんですね。ほう、昂奮《こうふん》せられるのはごもっと
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