心臓盗難
烏啼天駆シリーズ・2
海野十三

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)虎猫色《とらねこいろ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)全身|熟柿《じゅくし》の如くにして
−−

   深夜の事件


 黒眼鏡に、ひどい猫背の男が、虎猫色《とらねこいろ》の長いオーバーを地上にひきずるようにして、深夜の町を歩いていた。
 めずらしく暖い夜で、町並は霧にかくれていた。もはや深更《しんこう》のこととて行人の足音も聞えず、自動車の警笛の響さえない。
 黒眼鏡にひどい猫背の男は、飄々《ひょうひょう》として、S字状に曲った狭い坂道をのぼって行く。この男こそ、名乗りをあげるなら誰でも知っている、有名な頑張《がんば》り探偵の袋猫々《ふくろびょうびょう》その人であった。彼こそは、かの大胆不敵にして奇行頻々《きこうひんぴん》たる怪賊の烏啼天駆《うていてんく》といつも張合っているので有名なわけだった。そして彼は、おおむね烏啼のためにしてやられることが多く、従来のスコアは十九対一ぐらいのところであった。しかし名探偵袋猫々には、常に倦《う》まず屈《くっ》しない頑張り
次へ
全23ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング