の力があった。それは猫力《ねこぢから》というやつであったが、彼はこの猫力でもって、いずれ近いうちにめでたく、怪賊烏啼めを刑務所の鉄格子の中に第二封鎖せんことを期しているのだった。
さてその袋猫々探偵が、S字状の坂道を半分ばかりのぼったとき、彼はとつぜん足を停め、右の耳に手をあてがって首をぐるぐる左右へ何回も動かした。はて心得ぬ物音を感じたからである。甚だ微《かす》かではあったが、それは……。
スットン、スットン、スットン、スットン……。
どこまで行っても、スットン、スットンとその音は切れない。六十サイクルで二デシベルの音響だと、耳のいい探偵は悟った。一体どこからその音は発しているのであろうか。
「おおッ……」
われにもなく袋猫々は、おどろきの声を発した。彼は軒下《のきした》にふしぎなものを見たのだ。
その店舗は果実店であったが、もちろん戸はぴったり閉じられていたが、カンバス製の日蔽《ひおお》いが陽も照っていないのに、軒からぐっと前へ伸びて屋根をつくっていた。彼がおどろいたのはこの日蔽いではない。
その日蔽いの下にあたる舗石の上に、白い藁蒲団《わらぶとん》が敷いてあった。そし
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