て今福さんのお嬢さんと大ぴらの交際をなさるようになったのは……」
 煙草屋の内儀《かみ》さんが袋探偵に囁《ささや》いた。
 探偵は呻《うな》った。
 しばらくすると門の中から、さっきの紳士が、栗鼠の毛皮のオーバーにくるまった細面《ほそおもて》の麗人《れいじん》を伴って出て来た。
「ほらお嬢さまのお出ましですよ。あの殿御は今日で六日間お迎えにいらっしゃいますのよ。なんてご親切な殿御でしょう」
 内儀さんは溜息をつき、探偵は二度目の呻り声をあげた。
 クーペは薄紫のガソリン排気を後にのこし、車上の男女は視界から去った。
 探偵はようやく吾に戻って、周章《あわ》てだした。
「あんな若作りの変装をしてやがるが、あの殿御なる野郎は、誰が何といおうと、正《まさ》しく賊烏啼めに違いない。これで三角形の三つの頂点ABCが見つかったぞ。よし、それならこっちにもやり方がある」
 さきに告白を受けた安東仁雄と今福西枝の関係、それから今の今福西枝と烏啼天駆の関係が明白となった以上、もう一つの烏啼天駆対安東仁雄の関係が当然想到されるのだ。そしてこの第三関係の深刻の程度は、他の二つの関係によって決まる。この三角関
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