るところだった。
 そのとき五助は、彦太の足もとに小さい手帳が落ちているのを見つけたので、それは彦太が落としたものだと思い、彦太に注意をした。彦太はそれを拾い上げたが、それは彦太のものではなかった。
「ぼくんじゃないぞ」
「じゃあ誰のだろう」
「へんだねえ。こんなところに手帳を落とした者がいるなんて……」
 二人は顔をよせて、その手帳のページをひらいて中をしらべた。
「あ、これは兄さんのだ」
「えっ、一造兄さんの手帳かい」
「そうだとも。文字に見おぼえがあるし――あ、ほら、そこにほくの名が書いてある」
 なるほど、五助のいうとおりだった。『五助よ、気をつけよ、危険がせまっている、早くふもとへ引きかえせ……』
「あ、兄さんが、危険をぼくらに知らせているんだ」
「そうだ。よし、先を読もう」
 二人はこわさも忘れて、その手帳にかじりつくようにしてその先を読んだ。それには次のようなことが走り書になっていた。

 ――五助よ、気をつけよ、危険がせまっている、早くふもとへ引きかえせ。
 兄さんはゆだんをしていて失敗した。きょう(十二月二十五日)兄さんがかんそくしていると、とつぜん穴の奥がくずれる音
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