いえば、めずらしい出来事だ」
五助の語るのを聞いていた彦太はそのとき五助の手首に赤く血がついているのを見つけて、おどろきの目をみはった。
「五助ちゃん、怪我をしているじゃないか。手から血が出ているぜ」
「えっ、手から血が出ているって……」
五助もおどろいて、急いで自分の両手を見た。なるほど手首のところに、いっぱい血がついている。
「どこから出血したのだろう。別に痛みも感じないのにねえ」
よく調べてみたが、ふしぎにも、どこにも傷口が見つからない。
「どこにも、怪我はないんだがねえ」
「でもへんだね。ちゃんと血がついているんだからね。ずいぶんたくさんの血だよ」
彦太も、ともども調べてやったが、たしかに五助はどこにも傷をうけていないことが分った。
「ふしぎだねえ。どうしたんだろう」
「全くふしぎだ。気味が悪いねえ」
「ああ分った」
「分ったって。どういうわけなの」
「そのわけは……困ったねえ」と彦太は困った顔をしながら「でも五助ちゃん、悲観しちゃだめだよ。つまりあの雪穴の中に血が流れていたんじゃないか。その血が君の手についたのかもしれない」
「あっ、そうか」五助は、そういって、さっと
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