尾形さん、ここにある指紋を見て呉れ給え。こっちの方のは彼奴の左の人差指にちがいなかろう!」
警部はポケットから指紋帳を出して較べていましたが、驚きと悦びの声をあげて、
「彼奴の指紋だ。とうとう証拠を押えちまったぞ」
「お嬢さん、大方様子でお察しのとおり、ある人間が、お兄さまの癖を利用するために、あの受信機のダイヤルに、青酸加里をぬりつけて置いたのです。不幸なお兄さんは、あの夜|時報《タイム・シグナル》を受けるとて受信機の目盛盤を廻しているうちに、左の指に青酸加里をベットリつけてしまいました。開閉器をきり、綾子夫人からレモナーデを受けとる前に、青酸加里は指から口の中へ既に、いとたやすく搬ばれていました。右手でレモナーデのコップをとりあげて一息に飲み下したのだから、何条《なんじょう》たまりましょう。たちまち青酸瓦斯が体内に発生して一分と出でぬ間に急死してしまったのです。あの惨劇のあった後犯人はひそかに、青酸を塗った目盛盤を外し、これを綺麗に洗滌《せんじょう》しようと思って此の室にやって来たのです。しかるに犯人のために不幸な出来事が突発した。というのは、折角《せっかく》とり外したダイヤルが
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