全く馬鹿になってしまった」
尾形警部は、刑事の居るのもうち忘れて、机の上に顔を伏せると声をあげて泣き始めました。翌日から警部は病気と称して引籠《ひきこも》ってしまったのです。それで嫂の死は、自殺であると見做《みな》して一先ず事件の幕は閉じられてしまったのです。
百合子は赤耀館にさびしい不安に充ちた生活をしていました。彼女は、ここを立ち去る力もなく、ただ八月の月半ばまでには帰って来るであろうところの私を待ち佗《わ》びていたのです。その待ちに待たれた私は、八月の月半ばは愚かなこと、九月の声をきくようになっても、赤耀館に姿を見せませんでした。ただ、門司から「帰国はしたが、用事が出来たため赤耀館へ帰るのはすこし遅れる」という簡単な電文が百合子の許に届いたばかりでありました。
十月の声を聞くと、満天下の秋は音信《おとず》れて、膚寒い風が吹き初めました。赤耀館の庭のあちこちにある楓の樹も、だんだん真赤に紅葉をして参りました。百合子は突然、二人の訪問客を受けて近頃にない驚きを覚えました。その内の一人は、永らく休職していた筈の尾形警部であったのです。
「お嬢様、今日は私の友人を連れて伺いましたよ
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