た。というのは、綾子夫人が死んだ七月三十日には、彼奴は療養所の中から一歩も外へは出なかったことが判明したのです。御覧なさい、ここに療養所長の証明書があります」
尾形警部は沈痛な面持で、療養所長の証明書を一瞥《いちべつ》しました。大きな四角い字で次のような字句が記されてあったのです。
証明書
[#地付き]勝見伍策
[#地付き]明治三十一年九月九日生
[#ここから2字下げ]
右ハ本療養所患者ニシテ七月三十日ハ其ノ病室ニ在リテ正規ノ療養ニ尽シタルコトヲ証明ス
[#ここで字下げ終わり]
「そんなことがあり得るだろうか。この勝見の現場不在証明《アリバイ》は、この証明書から最早絶対に疑うことが出来ない。しかも綾子夫人は七月三十日にあのような死に方をしている。夫人を殺したのはどんな男だ? それは全く手懸りがなくなった。夫人の毒死が判り、一夜を明した男のあるのも判っているのにも係《かか》わらず、この事件は又、遂に結論を『自殺』へ持って行かねばならないのか。自分の直感は、この平凡な結論を嘲笑《ちょうしょう》する。その男が流しの殺人犯人だとも考えられない。鳴呼《ああ》、自分の頭脳は
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