もう骨になっています。それでも死んでいないとおっしゃるのですか」
「あんたの言うようなら、死んだのに違いないでしょう。しかしわたしの直感を正直に言ってしまえば、笛吹川さんは、死んでいないか、さもなければ、誰かに殺されたのに違いない。――あんたは何か知っているのでしょう」
「はい、私は二三のことを存じて居ります」
「言ってごらんなさい、なにもかも」
「では申しあげます。先ず第一に、笛吹川画伯の亡くなった時刻に、奥様は何処にいらっしゃいましたか?」
「まア、お前は……。何を失礼なことを考えているんです。わたしは、どこにいようと、余計なお世話です」
「失礼だとあれば、私は追窮《ついきゅう》はいたしますまい。しかし万一、捜査課の警部たちがひきかえして来て、奥様にこの質問をいたしたものと仮定しますと、唯失礼だと許《ばか》りで追払うことは出来ますまい。不幸にもあの時刻に於ける奥様の現場不在証明《アリバイ》は不可能でいらっしゃいましょう」
「……」
「第二には、旦那様のご存じないところの、笛吹川画伯と奥様との御交渉でございます。これも失礼と存じますので、内容は申しあげません。第三に……」
 そのとき
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