テンを明けてみましたら、帆村さんのお臀《しり》でしたわ。ホホホ」
「なあーンだ」
 一座はホッと溜息《ためいき》をついた。
「じゃ早くカーテンを下ろしなさい」
「済《す》みません」
 カーテンはパタリと下りた。元の暗闇が帰って来たけれど、皆の網膜《もうまく》には白光が深く浸《し》みこんでいて、闇黒《あんこく》がぼんやり薄明るく感じた。スクリーンの前では雁金検事が、しきりに眼をしばたたいていた。
 ウームというような低い呻《うな》り声が聞えたと思った。ドタリ……と、大きな林檎《りんご》の箱を仆《たお》したような音が、それに続いて起った。
 素破《すわ》、異変だ!
「どッどうした」
「まッ窓だ窓だ窓だッ」
「ランプ、ランプ、ランプ!」
 さーッと、窓から白光《はっこう》が流れこんだ。ネオン灯もいつの間にか点いた。
「キャーッ」と喚《わめ》いてカーテンに縋《すが》りついたのは、窓のところへ駈けよったばかりの白丘ダリアだった。床の上には、幾野捜査課長が土のような顔色をし、両眼《りょうがん》を剥《む》きだし、口を大きく開けて仆れていた。
 もう赤外線テレヴィジョンも何もなかった。窓という窓は明け放された。室内の一同の顔には生色《せいしょく》がなかった。
「赤外線男!」
「ああ、あいつの仕業《しわざ》だ」
 いまにも自分の身体に、赤外線男の猿臂《えんぴ》[#ルビの「えんぴ」は底本では「えんび」]がムズと触《ふ》れはしないかと思うと、恐ろしい戦慄《せんりつ》が電気のように全身を走った。眼に見えない敵! そいつをどう防げばいいのだ。どうして其《そ》の魔手《ましゅ》から遁《のが》れればいいのだ。
 そのとき帆村探偵は、一人進み出て、捜査課長を抱《かか》え起した。課長の頭は、ガックリ前へ垂れた。
「呀《あ》ッ、こりゃ非道《ひど》い!」
 帆村は呟《つぶや》いた。幾野課長の頸《くび》の真《ま》うしろに一本の銀鍼《ぎんばり》がプスリと刺さっていた。
 一同は吾《わ》れにかえると、赤外線男のことを鳥渡《ちょっと》忘れて、課長の死骸《しがい》の周囲に駈けあつまった。
「延髄《えんずい》を一と突《つ》きにやられている……」
「太い鍼《はり》だッ」
「指紋を消さないように、手帛《ハンケチ》でも被《かぶ》せて抜けッ」
「これは抜けますまい」と帆村が云った。
 なるほど、力の強い刑事が引張っても抜けな
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