い》に近い声をあげた。「どこに誰がいるやら判らないじゃないか。よオし、諸君はとりあえずこっちに立っていて呉れ給え。僕たちは、この椅子に腰をかけていることにしよう」
幹部だけが、スクリーンを包囲《ほうい》して、椅子に席をとった。
「いいですか」
「いいよ」
パッとネオン灯は消えた。すると一尺四角ばかりのスクリーンの上に、朧気《おぼろげ》な映像があらわれた。
「馬鹿に暗いネ」と課長が云った。
「ピントが外《はず》れているのです。増幅器《ぞうふくき》もまだうまいところへ調整がいっていません。直ぐ直ってきますよ」
なるほど映像はすこし明瞭度《めいりょうど》を加えた。テニスコートの棒くいや審判台らしいものが見える。そこへ人影らしいものが。
「人間が通っているぞ」課長が叫んだ。「早く肉眼で運動場を見せ給え」
「これは、こっちのレンズからお覗《のぞ》き遊ばして……」捜査課長の耳許《みみもと》でダリアの声がした。
「呀《あ》ッ」と課長は慌《あわ》てたが「いやなるほど、よく見えます。――なあーンだ、例の用務員が本当に通ってやがる」
まず赤外線男ではなかったので安心した。
「この辺《あたり》のところですから、さあ誰方《どなた》も変りあってスクリーンを覗いて下さい」理学士が器械から離れながら云った。
「さあ順番に見ようじゃないか」検事が後の方から声をあげた。
ゴトリゴトリと靴音がして、スクリーンの前に観察者が入れ代っているようだった。
「どうも赤外線写真というものは、色の具合が、死人の世界を覗いているようだな」判事さんが呟《つぶや》きながら視《み》ている。
そのとき真暗《まっくら》だった室内へ、急に煌々《こうこう》たる白光《はっこう》がさし込んだ。
「呀《あ》ッ!」
「どッどうしたんだ」理学士が叫んだ。
一つの窓のカーテンが、サーッとまくられたのだった。皆の眼は、この眩《まぶ》しい光に会ってクラクラとした。
「いいえ、何でもないのです。失礼しました」と、窓のところでダリアの声がした。
「困るじゃないか」深山は云った。
「アノちょっと何だか、あたしの身体になんだか触《さわ》りましたのよ。吃驚《びっくり》して、窓をあけたんですの」
「ああ、もう出たかッ――」
「赤外線男!」
「窓を皆、明けろッ!」
そのとき白丘ダリアは朗《ほが》らかな声で云った。
「いいえ、大丈夫ですわ。カー
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