っているらしく、ほの暗い入口が見える。その奥は、がっちりした和風建築の二階家で、これも戸が閉まっている。この袋小路のつきあたりは、お濠《ほり》だった。
 そんなわけで、起きているのはカフェばかりだった。
 私達は、カフェ・ドラゴンとネオンサインで書かれてある入口を覗《のぞ》いてみた。
「まア、いい御気嫌《ごきげん》ね、ホホッ」
 誰も居ないと思った入口の、造花《ぞうか》の蔭に女がいた。僕は帆村の腕をキュッと握りしめて緊張した。
「君、君ンとこは、まだ飲ませるだろうな」
「モチよ、よってらっしゃい」
「おいきた。友達|甲斐《がい》に、もう一軒だけ、つきあってくんろ、いいかッ」
 帆村が、私の顔の前で、酔払《よっぱら》いらしくグニャリとした手首をふった。私にはその意味がすぐわかったのだった。
 入口へ入ろうとすると、
「おッとっとッ」
 急に帆村は、私の腕をもいで、つかつかとお濠端《ほりばた》まででると、前をまくって、シャーシャー音をたてて小便をした。帆村のやつ、小便にかこつけて、お濠の形勢を窺《うかが》っていることは、私にはよく判った。
 入ってみると、そこは何の変哲《へんてつ》もないカ
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