だけだった。私達と弥次馬とは、ずっと間隔《かんかく》ができてしまった。そして、いつの間にか、丸《まる》の内《うち》寄《よ》りの、濠《ほり》ちかくまで来ているのに気がついた。
「あッ、しめた。袋小路《ふくろこうじ》へ入ったぞ。彼奴《あいつ》が、ひっかえしてくるところを抑《おさ》えるんだッ」
 帆村の声に、私は最後の五分間的な力走《りきそう》をつづけた。果然《かぜん》その袋小路の入口へきた。
「待て!」
 帆村は、その入口に忍びよると、倒れるように地に匍《は》ってそッと下の方から、袋小路をのぞきこんだ。
 三十秒、四十秒、五十秒、帆村は動かない。
 三分も経《た》ってから、帆村は塵を払って立ちあがった。彼は私の耳許で囁《ささや》いた。
 コートの襟《えり》を立て、巻煙草を口にくわえた酔漢《すいかん》が二人、腕を組みあって、ノッシ、ノッシと、袋小路に紛《まぎ》れこんだ――勿論、帆村と私とだった。
 その袋小路は、ものの五十メートルとなかった。両側に三軒ずつの家があった。右側は、みな仕舞屋《しもたや》ばかりで、すでに戸を締めている。左側は表通りと連続して、古い煉瓦建の三階建があって、カフェをや
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