んという異国情調的《エキゾティック》な香なんだろう。私の手は無意識に伸びて、その上衣のポケットを、まさぐっていた。
(おお、なんだか、入っているぞ!)
掌《てのひら》に握れるほどの大きさのものだった。出してみた。透《す》かしてみた。そして撫《な》でまわしてみた。何だか壜《びん》のようだ。
突如! 近くで私の名を呼ぶ声がする。私はムックリ起上った。
横丁をすりぬけて、飛鳥《ひちょう》のように駈出してゆく人影! やッ、彼奴《あいつ》だ! 彼奴が引返してきたのだ!
そのあとからバラバラと追ってきたのは、帆村《ほむら》だった。
「元気をだせ! 走れ、早く!」
と帆村は私の方に投げつけるように叫んで、怪人物の跡を追った。そのあとから、真夜中ながら弥次馬《やじうま》のおしよせてくる気配《けはい》がした。私は弥次馬に追越されたくなかったので、驀地《まっしぐら》に駈けだした。今度は大丈夫走れるぞと思った。
その鼠のような怪青年は、目にとまらぬ速さで逃げまわった。街燈が黄色い光を斜になげかけている町角をヒョイと曲るたびに、
「ソレあすこだ!」
と、怪青年の黒影《こくえい》が、ぱッと目に入る
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