フェだった。広いと思ったのは、表だけで、莫迦《ばか》に奥行《おくゆき》のない家だった。帆村は先登《せんとう》に立って、ノコノコ三階まで上った。各階に客は四五人ずついたが、私達の探している相手らしいものの姿は、どこにも見当らなかった。
「なに召上って?」
入口にいた女給が、三階までついてきた。
「ビールだ。で、君の名前は?」
「マリ子って、いうわ、どうぞよろしく」
イートン・クロップのお河童頭《かっぱあたま》がよく似合う子だった。前髪が、切長《きれなが》の涼《すず》しい眼とスレスレのところまで垂《た》れていた。なによりも可愛いのは、その、発育しきらないような頤《あご》だった。
「おいマリちゃん」すかさず帆村が、彼女の名を呼んだ。「ここ、特別室《スペシャル・ルーム》があるんだろう。地下室か、なんかに、そこへ案内しろよ」
「地下室なんて、ないわよ。この三階がスペシャルなんじゃないの、ホホッ」
と、やりかえして、マリ子は下へ降りていった。
煙草の箱を探そうと思ってポケットへつきこんだ指先に、カチリと硬い物が当ったので、私は思いだした。
「おい、戦利品《せんりひん》だ」私は、帆村の脇腹《
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