。これは、近視眼《きんしがん》の漢青年を利用したパノラマでしかなかったことが暴露《ばくろ》されたのだった。
 外には、どうやら喊声《かんせい》があがっているような気配だった。
 だが、どうしたのか、孫も王も、それからマリ子も上ってくる様子がなかった。漢青年は、片手にハンマーを掴《つか》むとヒラリと寝台の上に飛びあがり、やッと声をかけると、天井裏にとびついた。彼の全身にはエネルギーが、はちきれるように溢《あふ》れているのが感ぜられた。
 彼の手に握られたハンマーは、天井板を木葉微塵《こっぱみじん》に砕《くだ》いていった。彼は勢いにまかせ、ドンドン上に向って出ていった。
 壁土《かべつち》のようなものがバラバラと落ち、ガラガラと屋根瓦《やねがわら》が墜落すると、そのあとから、冷え冷えとする夜気《やき》が入ってきた。漢青年はその孔《あな》からヒラリと外に飛び出したのだった。
「おお、これは」
 それは見覚えのある銀座裏の袋小路《ふくろこうじ》に相違《そうい》なかった。彼の立っているのは、カフェ・ドラゴンとお濠《ほり》との間にある日本|建《だて》の二階家の屋根だった。ハンマーで打ちぬいて来たの
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