という音響をきいたと思った。
 漢青年は、ハッと気がついた。
「今夜の停電というのが、これだ。そしてこれには、何か根本的の誤謬《ごびゅう》がある!」
 彼は持っていたニッケルの文鎮《ぶんちん》を、ヤッと天井と思われる方向めがけて、投げあげた。
 ガラガラと、硝子天井が崩れる音がした。
 その途端に、パッと明るくなった。
 二度目の奇蹟! 太陽は再び珊々《さんさん》たる光線を硝子天井の上に降りそそいだ。
「畜生! こんなカラクリに、ひとを騙《だま》しやがってッ!」
 漢青年は、壊《こわ》れた天井の間から大空を見あげると、そこには碧《あお》い大空のかわりに、もう一層の天井があって、この二つの天井の間に燭力《しょくりょく》の強い電球がいくつも点いているのが見えた。ああ、この偽瞞《ぎまん》にみちたインチキ日光に、青年は幾日|幾月《いくげつ》を憧れたことだったろう。
 彼は一つ肯《うなづ》くと素早《すばや》く、西湖《せいこ》を望む窓辺に駈けより、重い花壜《かびん》を※[#「てへん+発」、304−下−4]止《はっし》となげつけた。ガタリという物音がして、西湖の空のあたりが、二つに裂けて倒れた
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