は遙かに、若い男だった。年齢《とし》のころは二十四五でもあろうか。だが非常に憔悴《しょうすい》していた。皮膚には一滴の血《ち》の気《け》もなく下瞼《したまぶた》がブクリと膨《ふく》れて垂《た》れ下《さが》り、大きな眼は乾魚《ひもの》のように光を失っていた。
「きみは、おおお面白いことを云う」帆村が口のあたりについている涎《よだれ》らしいものを手の甲で拭《ぬぐ》い乍《なが》ら云うのであった。
「生きているかァ? ウンここにあるのは、きみィの胸ではないか、だッ」
帆村は腰をかがめ、指先を自分の眼の前にチラチラふるわせて云った。
「では、僕の手を握ってください」
「よオし、握った」
帆村はよろけながら、怪青年の手を執《と》った。
「その手は、僕の身体に繋《つなが》っているでしょうか」
「ばば馬鹿なことを云いたまえ。ついていなくて、どうするものかッ」
「僕が喋《しゃべ》るときには、この唇が動いているでしょうか」
「なに、唇が……。パクン、パクンあいたり、しまったりしてるじゃねえか、こいつひと[#「ひと」に傍点]を舐《な》めやがって」
帆村は、気合《きあい》をかけると、
「ええいッ」
と
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