まえ、すると目の前に、白い時計の文字盤が朦朧《もうろう》とあらわれ、短い針と長い針の傾きがアリアリと判るのだ。そうして置いて、掌《てのひら》を開き、本当の文字盤を見る。果然《かぜん》! 一分と違《たが》わず二つは一致している――これでも諸君は信じないというか?
四ツ角では、帆村ともう一人の黒い影とが、縺《もつ》れあっているのだった。
私は、応援してやりたい気持一杯で、ペイブメントを蹴って駈けだしたのであるが、駈けるというよりは、泳ぐというに近かった。
「ぼぼぼ僕は、いいい生きているでしょうか」
と帆村の前に立つ怪《あや》しの男が、熱心に尋《たず》ねている。
帆村は、その男に胸倉《むなぐら》をとられたまま、
「ウウ、ううウ」
と低く呻《うな》っているばかりだった。
「ちょいと、僕の身体を触ってみてください。この辺を触ってみて下さい」
泣かんばかりに彼《か》の男は喚《わめ》くのであった。そして帆村を離すと、ベリベリと音をさせて、われとわがワイシャツを裂《さ》きその間から屍《しかばね》のように青白い胸部を露出させた。私は、初めてその男の姿をマジマジと観察したのだったが、思ったより
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