なつか》しいものである。三間先のコンクリート壁体《へきたい》を舐《な》めるようにして歩いていた帆村は、四ツ角を見付けると嬉しそうに両手をあげ、まるでゴールのテープを截《き》るような恰好をして、蹣跚《よろ》けていった。そのとき私は後からそれを眺めていて、急にハッとしたのだった。
――その四ツ角へ、別の横丁から、おかしな奴がノコノコやってくる!
その姿は、本当には薩張《さっぱ》り見えないのだ。それにも拘《かかわ》らず、見えない横丁に歩いている人間の姿が見えたような気がした。いや、矢張《やは》りハッキリと見えたのだ。それは不思議なようで、別に不思議はないことだ。私達のように永年《ながねん》都会に棲《す》んで、極度に神経を敏感以上、病的に削《けず》られている者は、別に特殊な修練《しゅうれん》を経《へ》ないでも、いつの間にか、ちょっとした透視《とうし》ぐらいは出来るようになっているのだった。これはいつも、そういう話の出たときに、私の言う話であるが、試《こころ》みに諸君は身体の調子のよいときに、ポケットの懐中時計をソッと掌《て》のうちに握って、
(はて、いま何時何分かなァ――)
と考えてみた
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