リズムであるべきだった。しかるに今夜、彼はそれ等の特徴を見事ふりおとして、身体中が隙《すき》だらけであるかのように見えた。もし彼に怨恨《うらみ》のある前科者《ぜんかもの》どもが、短刀|逆手《さかで》に現われたとしたらどうするだろうと、私は気になって仕方がなかった。
すると、背後から大声でもって、警告してやりたい程、矢鱈無性《やたらむしょう》に不安に襲われた。この嘔気《はきけ》のようにつきあげてくる不安は、あながち酩酊《めいてい》のせいばかりでは無いことはよく判っていた。近代の都市生活者の九十九パーセントまでが知らず識らずの間に罹《かか》っているといわれる強迫観念症《きょうはくかんねんしょう》の仕業《しわざ》にちがいないのだ。
帆村が蹣跚《よろ》めくのを追って、私が右にヨタヨタと寄ると、帆村は意地わるくそれと逆の左の方にヨロヨロと傾《かたむ》いてゆくのだった。銀座裏は時刻だから、いたずらに広々としたアスファルトの路面がのび、両側の家はヒッソリと寝しずまり、さまざまの形をした外燈が、半分夢を見ながら足許《あしもと》を照らしていた。
酔っ払いにとって、四ツ角《かど》は至極《しごく》懐《
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