》をしていた。
漢青年は、退屈を感じて、医師の顔ばかりみていた。ことにそのよく動く唇を呆《あき》れて眺めていた。
(これは変だな)
と、漢青年は胸のなかで呟《つぶや》いた。寝台の下でガーゼを絞《しぼ》っている医師の目は、何事かを彼に訴えるかのように、動いていた。そこの場所では、漢青年の脚を抑えている孫と王の視線が、全く届かないところだった。
怪しい医師は、警告の目付をしたあとで、唇をビクビクと動かせた。
漢青年は、しばらくその唇の動くのを見ていたが、
(呀《あ》ッ)
とばかりに、心中驚いた。それというのが、この怪しい医師の唇は、煙草を噛んでいると見せかけて、唇の運動がモールス符号をうっているのだった。それを一々判読して綴《つづ》ってみると次のような文句になった。
「シュジュツゴ、ガーゼヲトッテ、テガミヲミヨ」
「手術後、ガーゼを取って、手紙を見よ」この信号は、繰返《くりかえ》し発信されたのだった。
口の利けず、耳の聞えない医師は、最後に大きいガーゼをあてて、その周囲を絆創膏《ばんそうこう》で止めると、遂に一語も発しないで、部屋を出ていった。孫も王も、医師を見送るためにこの室
前へ
次へ
全48ページ中39ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング