でございますから、杭州へ出まして医師を見つけて来ます間三日間お待ち下さいまし」
 と云った。
「何を措《お》いても、早くせい!」
 漢青年は家扶を激励したのだった。
 それから三日目のことだった。
 孫はニコニコして部屋に入ってくると、痔の医師を連れてきたことを報告したのち、
「この医師は、口が利けず、耳も聞こえませんから、何もお話しなさってはなりませぬぞ」
 と、厳《おごそ》かな顔付をして附加えた。
 そこへ王妖順が、一人の不思議な男を案内してきた。色の褪《あ》せた古い型の長衣を着ていて、いつも口をモグモグさせては、ときどきチュッと音をさせて、真黒い唾を嘔《は》いた。それは多分、よほど噛《か》み煙草の好きな男なのだろう。彼は黴《かび》くさい鞄を開くと、ピカピカ光る手術道具をとりだした。王と孫が、漢青年の衣類を脱がせた。
(マリ子が居てくれればよいのに、マリ子はどこへ行ったのだろう)
 漢青年は、マリ子が今日は少しも顔を見せないのに不審をうった。
 孫と王とが、漢青年の両脚を抑えつけていると、その噛煙草ずきの医師は、メスを探すやら、ガーゼを絞るやらで、ひとりで手《て》ン手古舞《てこまい
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