あたりの風景を見るときのことを考えて、どんなに嬉しいだろうかと、胸をわくわくさせたのだった。
ところが或日のこと、漢青年は困ったことに出逢ってしまった。それは不図《ふと》彼が、生前|痔疾《じしつ》を病んだことを思い出したのだった。気をつけていると、寝具《しんぐ》や、床の上までもその不快な血痕《けっこん》が、点々として附着しているのを発見した。
彼は驚いて、マリ子の幻影を呼ぶと、患部《かんぶ》を拭《ぬぐ》わせた。彼女の言葉によると、その痔疾は、かなりひどくなっているそうである。
それだけならば、漢青年は、我慢をしているつもりだった。ところが彼は問題を惹起《ひきおこ》さずにいられないことになったというのは、幾度《いくたび》もマリ子に、痔の清掃《せいそう》を命じているうちに、いままでのあらゆる彼の暴令に、唯の一度も厭《いや》な顔を見せたことのない彼女が、この痔疾の清掃には極度に眉を顰《しか》めていることに気がついたからであった。
漢青年は遂に決心をして、家扶《かふ》の孫火庭を呼んで、痔疾《じしつ》の治療をしたいと云った。
孫は非常に困ったような顔をしたが、
「何分ここは片田舎のこと
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