、いや、それとも少し違うようだ。
気がつくと、枕頭《まくらもと》に人間が立っている。見ると一人ではない。三人だった。
その顔には、覚えがあった。中国服に身を固めた孫火庭と王妖順だった。もう一人はピカピカする水色の絹で拵《こしら》えた婦人服のよく似合うマリ子だった。
「これは一体何事だい」
と漢青年は呶鳴《どな》った。
「貴方様は、遂《つい》に亡《な》くなられました」
と孫が、いつになく穏《おだや》かな口調《くちょう》で云った。
「莫迦《ばか》を云うな。お前達がよく見えている」
「貴方様はお気付になりませんか」孫は顔を一尺ほどに近づけて云うのだった。「貴方様は京浜国道で、自動車を電柱に衝突なさいまして、御頓死《ごとんし》遊ばしましたのですぞ。貴方様は幽界《ゆうかい》にお入りになって、唯今《ただいま》から幻影《げんえい》を御覧になっています。われわれも、貴方様の霊のうちにのこる一個の幻影にすぎません。お疑いならば、お手をお触れ下さい」
そう云って孫は、漢青年の手をとった。彼は自分の手がスウと持上って、孫火庭の身体を撫でているのを見た。しかし孫がそこにいることは、全く感ぜられなかっ
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