《おとな》しく、閉籠《とじこも》っている自室を出ると孫を呼んで、自分が生きているかどうかを、尋《たず》ねてみた。
孫の言葉だけでは物足りないときは、マリ子を呼んで、身体の一部に触《さわ》らせた。それでも自信が得られないときは、気が変になったようになって、深夜《しんや》の街を彷徨《ほうこう》し、逢う人逢う人に、自分が生きているかどうかを判定してくれるように頼むのだった。人々は誰もこの男を同情したり、恐ろしがったりした。
帆村探偵との出会《であい》も、その発作中《ほっさちゅう》の出来事だった。
だが、その内に、いよいよ本当の運命の日が来てしまった。
ハッキリした記憶はない。何年何月何日だったかも知らない。漢青年が不図《ふと》眼を醒《さ》ますと、彼は見慣れぬ寝床《ねどこ》に睡っていたことを発見したのだった。明るい屋根の下の室《へや》だった。グルリと見廻わすと、五間四方位の室だった。室内の調度は……。
「おおッ」
と彼は叫んだ。よく見ると、いちいち、古い記憶のある調度ばかりだった。鶯色《うぐいすいろ》の緞子《どんす》の垂幕《たれまく》、「美人戯毬図《びじんぎきゅうず》」とした壁掛《か
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