霊実験会の多くの実例によって、判ってきたのだった。そのことは一層、漢青年を脅《おびや》かした。彼は、京浜国道《けいひんこくどう》を六十|哩《マイル》のスピードで走っていて、時々通行人を轢《ひ》いたり、荷車に衝突して自分も相当の怪我をしたことが何回もあったことを顧《かえり》みて慄然《りつぜん》とした。ひょっとすると、あのうちのどの事件かで以て、自分は既に死んでしまったのではなかったか。
そうした不安が、心の片隅に咲きだすと、見る見るうちに空を蔽《おお》う嵐雲《らんうん》のように拡がっていった。彼は異常の興奮に発汗《はっかん》しながら、まず胸部を抑《おさ》えるのだった。それから、幅の広い帯を探し、臀部《でんぶ》を撫《な》で、頭髪《かみ》に触れてみた。もしや指の先に、大竹女史の身体が触ったなら、そのときは万事休すといわなければならない。
いやいや、霊媒《メディウム》は、大竹女史に限ったことはないのだ。中には、男の霊媒もあることだった。どの霊媒を通じて、自分の霊魂が、娑婆《しゃば》を訪問するかもしれない。そう思うと、居ても立っても居られなかった。このごろでは自動車の運転も控え目にして、温和
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