とりだすと、そう云った。
「神田仁太郎という男だネ」そういって、私は、帆村の室にかかっているブコバックの裸体画《らたいが》が、正午ちかい陽光《ようこう》をうけて、眩《まぶ》しそうなのを見た。
「あの袋小路には、カラクリがある」
「どんなカラクリだい」
「そいつは判らん。だが追々《おいおい》わかってくるだろう」
「神田仁太郎のことなら、小石川の、その何というのか心霊実験会《しんれいじっけんかい》みたいなところで訊《き》けばわかりやしないか」
「既にさっき調べてきた」帆村は苦りきって云うのだった。
「無論、住所は二人とも出鱈目《でたらめ》だった」
「あの神田という青年は、なんだって、あんな恰好で銀座裏なんかに現われたのだい。あれは神田氏だけの問題なので、気が変になったとか或いは酔払《よっぱら》っていたとか(ここで私はクスリと忍び笑いをしなければならなかった)そういったことだけなのか。それともあれが、もっと大きな事件の一切断面《いっさいだんめん》だとでも云うのかい」
「もちろん事件だ」帆村は言下《げんか》に答えた。「わるくすると、われわれの想像できないような大事件かも知れない」
「そんなこと
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