て、女史の身体を後から支《ささ》えたほどだった。
「いえ先生は既に亡くなられました。今日はそれをお教えして、死後の御立命《ごりつめい》をおすすめに来たのです。先生には死んだような気がなさいませんか」
「そういわれると、どうも、腑《ふ》におちないこともあるんだが……」女史は、首をすこし曲げて、何事かを考えている風だった。
「宗先生、試みに、御自分の体を触ってごらんなさい」
 女史は、自分の胸のあたりに両腕を組むようにしてそこらを撫《な》でるのだった。
「わかりますか、先生、胸のところに、乳房《ちぶさ》がありましょう」
「ほほウ、これはおかしい」女史は自分の乳房を着物の上からギュッと握りしめて不審気《いぶかしげ》であった。
「先生は、幅の広い帯をしめて居られる。太腰《ふとごし》のまわり、柔らかい膝、そして先生の頭には、豊かな黒髪がある!」
 曽我貞一の言葉につれて、女史は手を動かして、或《あるい》は腰のまわりに恐ろしそうに触れ、膝を押していたが、最後に両手をあげて、房々《ふさふさ》とした束髪《そくはつ》を抑《おさ》えたときに、
「キャッ」
 と一声《いっせい》喚《わめ》いた。女史は極度に興
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