って、その奥に朽《く》ちかかった門柱が見える家があった。その家の門は、月のうち、二三日を除いて、滅多《めった》に開かれることがなかった。門の鈴がリリリンと冴《さ》えた音をさせる日は、大抵《たいてい》月の上旬にきまっていた。もし気をつけて垣の間から窺《うかが》っているならば、訪客は夜分《やぶん》にかぎり、そして年齢のころは皆、四十から下の比較的わかい男女であって、いずれも相当の身姿《みなり》をしていることが判ったであろう。
 帆村探偵も、その夜の客に交《まじ》っていたのだった。
 彼は階下の待合室で、順番を待っていた。一座には、袴《はかま》をはいて頤《あご》の先に髯《ひげ》を生やしている男が、しきりに心霊《しんれい》の物理学について論じていた。その隣りには、半年前に夫を喪《うしな》ったというまだ艶々《つやつや》しい未亡人だの、その姪《めい》にあたるという若い女だのが居流《いなが》れていた。帆村はひとり離れて下座《しもざ》にいた。手を伸ばすと、寒そうに光っている廊下が触《ふ》れる。その廊下を出ると幅の狭い段梯子《だんばしご》が、二階へつづいていた。
「ボワーン」
 と小さい銅鑼《どら》をう
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