ったような音響が、その段梯子の上から流れてきた。
「貴方の番ですよ」
 と、頤髯《あごひげ》のある男がお喋《しゃべ》りを中止して、帆村の方に合図《あいず》をした。
 帆村は恭々《うやうや》しく頭を下げると、しびれのする脚を伸ばして立ちあがった。
 階下の明るさにくらべて、段梯子のうえは、暗闇にちかかった。彼は手さぐりに、のぼって行った。最後の段をのぼりきると、目の前には異様な光景が浮びあがったのだった。
 十畳敷ほどの間が二つ、障子《しょうじ》があいていた。薄ぼんやりと明りがついている。小さいネオン燈《とう》が、シェードのうちに、桃色《ももいろ》の微《かす》かな光線をだしていた。床《とこ》の間《ま》を背に、こっちを向いて坐っているのは、婦人だった。暗くてよくは判らないが若くはない。その隣には、懐中電燈の載《の》った小机《こづくえ》を前にして頭の禿げあがった老人がいた。もう二人、背広姿の若い男がいて、これは婦人の前に畏《かしこま》っていた。
「では大竹さん」と老人は、隣の夫人に呼びかけた。
「序《ついで》に、も一つやってあげて下さい」
 大竹さんと呼ばれた婦人は、無言で肯《うなず》いた。
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