ラス管のお尻をうける台をつくった。
黴くさい医学書が山のように積みあげられ、そしてわけのわからぬ錆ついた手術具や医療器械やが、所もせまくもちこまれている医学生吹矢の室は、もともと奇々怪々なる風景を呈していたが、いまこの珍客「生ける腸《はらわた》」を迎えて、いよいよ怪奇的装飾は整った。
吹矢は脚の高い三脚椅子を天井からぶら下る[#底本では「天井からぶら下げる」]ガラス管の前にもっていった。彼はその上にちょこんと腰をかけ、さも感にたえたというふうに腕組みして、清澄なる液体のなかに蠢くこの奇妙な人体の一部を凝視している。
ぐにゃ、、ぐにゃ、ぐにゃ。
ぷるっ、ぷるっ、ぷるっ。[#底本では「ぶるっ、ぶるっ、ぶるっ。」]
見ていると腸《はらわた》は、人間の顔などでは到底表わせないような複雑な表情でもって、全面を曲げ動かしている。
「おかしなものだ。しかし、こいつはこうして見ていると、人間よりも高等な生き物のような気がする」
と医学生吹矢は、ふと論理学を超越した卓抜なる所見を洩らした。
それからのちの医学生吹矢は、彼自身が生ける腸《はらわた》になってしまうのではないかとおもわれるふうに
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