る腸《はらわた》を手に入れたがったのであろうか。それは彼の蒐集癖を満足するためであったろうか。
 否!

     リンゲル氏液内の生態

 生きている腸《はらわた》――なんてものは、文献の上では、さまで珍奇なものではなかった。
 生理学の教科書を見れば、リンゲル氏液の中で生きているモルモットの腸《ちょう》、兎の腸《ちょう》、犬の腸《ちょう》、それから人間の腸《ちょう》など、うるさいほどたくさんに書きつらなっている。
 標本としても生きている腸《ちょう》は、そう珍らしいものではない。
 医学生吹矢が、ここにひそかに誇りとするものは、この見事なる幅広の大|腸《ちょう》が、ステッキよりももっと長い、百|C・M《ツェーエム》もリンゲル氏液の入った太いガラス管の中で、活撥な蠕動をつづけているということであった。こんな立派なやつはおそらく天下にどこにもなかろう。まったくもってわが熊本博士はえらいところがあると、彼はガラス管にむかって恭々しく敬礼をささげたのだった。
 彼は生ける腸《はらわた》を、部屋の中央に飾りつけた。天井から紐をぶら下げ、それにガラス管の口をしばりつけたものであった。下には、ガ
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