が、ふと気がついて、出かけるときにチコのために作っておいた砂糖水のガラス鉢に眼をやった。
ガラス鉢の中には、砂糖水がまだ半分も残っていた。彼は愕きの声をあげた。
「あれっ、今ごろは砂糖水がもうすっかりからになっていると思ったのに――チコのやつどうしやがったかな」
そういった刹那の出来事だった。
吹矢の目の前に、なにか白いステッキのようなものが奇妙な呻り声をあげてぴゅーっと飛んできた。
「呀《あ》っ!」
とおもう間もなく、それは吹矢の頸部にまきついた。
「ううっ――」
吹矢の頸は、猛烈な力をもって、ぎゅっと締めつけられた。彼は虚空をつかんでその場にどっと倒れた。
医学生吹矢の死体が発見されたのは、それから半年も経ってのちのことであった。一年分ずつ納めることになっている家賃を、大家が催促に来て、それとはじめて知ったのだ。彼の死体はもうすでに白骨に化していた。
吹矢の死因を知る者は、誰もなかった。
そしてまた、彼が残した「生ける腸《はらわた》チコ」に関する偉大なる実験についても、また誰も知る者がなかった。
「生ける腸《はらわた》」の実験は、すべて空白になってしまった。
た
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