わって応接室に坐っているのを見て愕いた。
「この前の一件は、どうしたですか」
と、博士はそっとたずねた。
「ああ、生きている腸《はらわた》のことだろう。あれはいずれ発表するよ、いひひひ」
「一件は何日ぐらい動いていましたか」
「あはっ、いずれ発表する、だがね熊本君。腸《はらわた》というやつは感情をあらわすんだね。なにかこう、俺に愛情みたいなものを示すんだ。本当だぜ。まったく愕いた。――時にあれは、なんという囚人の腸《はらわた》なんだ。教えたまえ」
「……」
博士は返答をしなかった。
いつもの吹矢だったら、博士が返答をしなかったりすると、頭ごなしにきめつけるのであるが、その日に限り彼はたいへんいい機嫌らしく、頤をなでてにこにこしている。
「それからね、熊本君。ホルモンに関する文献をまとめて、俺にくれんか。――ホルモンといえば、この病院にいた例の美人の交換手はどうした。二十四にもなって、独身で頑張っていたあの娘のことだよ」
と、吹矢は変にいやらしい笑みをうかべて熊本博士の顔をのぞきこんだ。
「あ、あの娘ですか――」
博士は、さっと顔色をかえた。
「あの娘なら、もう死にましたよ、盲
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