、それも補充しておきたい。チコのために、いろんなスープをさがしてきてやろう。
 彼はこの百数十日というものを、一歩たりとも敷居の外に出なかったのである。
「ちょっと出かける。砂糖水は、隅のテーブルのうえに、うんと作っておいたからね」
 彼は急に外が恋しくなって、チコに食事の注意をするのもそこそこに、入口に錠をおろし、往来にとびだしたのだった。

     誤算

 医学生吹矢隆二は、つい七日間も外に遊びくらしてしまった。
 一歩敷居を外に踏みだすと、外には素晴らしい歓喜と慰安とが、彼を待っていたのだ。彼の本能はにわかに背筋を伝わって洪水のように流れだした。彼は本能のおもむくままに、夜を徹し日を継いで、歓楽の巷を泳ぎまわった。そして七日目になって、すこしわれにかえったのである。
 チコの食事のことがちょっと気になった。日をくってみると、あの砂糖水はもうそろそろ底になっているはずだった。
「まあ一日ぐらいは、いいだろう」
 そう思って彼はまた遊んだ。
 その日の夕方、彼はなにを思ったか、足を○○刑務病院にむけた。そして熊本博士を訪問したのであった。
 博士は、吹矢があまりに人間臭い人間にか
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