、その代りに淡紅色のガスがもやもやと雲のようにうごいていた。
 ガラス管の中には、液のなくなったことを知らぬげに、例の腸《はらわた》はぴくりぴくりと蠕動をつづけているのであった。
 医学生吹矢の顔は、馬鹿囃の面のように、かたい笑いが貼りついていた。
「うふん、うふん。いやもうここまででも、世界の医学史をりっぱに破ってしまったんだ。ガス体の中で生きている腸《はらわた》! ああなんという素晴らしい実験だ!」
 彼はつぎつぎに新らしい装置を準備しては古い装置をとりのけた。
 実験第八日目には、ガラス管の中のガスは、無色透明になってしまった。
 実験第九日目には、ブンゼン燈の焔が消えた。ぶくぶくと泡立っていたガスが停った。
 実験第十日目には、モートルの音までがぴたりと停ってしまった。実験室のなかは、廃墟のようにしーんとしてしまった。
 ちょうどそれは、午前三時のことであった。
 それからなお二十四時間というものを、彼は慎重な感度でそのままに放置した。
 二十四時間経ったその翌日の午前三時であった。彼はおずおずとガラス管のそばに顔をよせた。
 ガラス管の中の腸《はらわた》は、今や常温湿度[#底
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