さい泡がたった。
 吹矢隆二は、大きな画板みたいなものを首から紐でかけ、そして鉛筆のさきをなめながら、電流計や比重計や温度計の前を、かわるがわる往ったり来たりして、首にかけた方眼紙の上に色鉛筆でもってマークをつけていった。
 赤と青と緑と紫と黒との曲線がすこしずつ方眼紙の上をのびてゆく。
 そうしているうちにも、彼はガラス管の前に小首をかたむけ、熱心な眼つきで、蠕動をつづける腸《はらわた》をながめるのであった。
 彼は文字通り寝食を忘れて、この忍耐のいる実験を継続した。まったく人間業とはおもわれない活動ぶりであった。
 今朝の六時と、夕方の六時と、この二つの時刻における腸《はらわた》の状況をくらべてみると、たしかにすこし様子がかわっている。
 さらにまた十二時間経つと、また何かしら変った状態が看取されるのであった。
 実験がすすむにつれ、リンゲル氏液の温度はすこしずつのぼり、それからまたリンゲル氏液の濃度はすこしずつ減少していった。
 実験第四日目においては、腸《はらわた》を収容しているガラス管の中は、ほとんど水ばかりの液になった。
 実験第六日目には、ガラス管の中に液体は見えずになり
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