そういっただけで、帆村は光枝の表情の変化などについても一言も批評らしい口をきかなかった。それだけ光枝の方では、間が悪かった。
「先生は、お人がわるいんですのね」
「いや、どういたしまして。これが商売ですからね、そうじゃありませんか」帆村は、そういった後で、光枝の姿をじっと眺めていたが、やがて、
「ときに貴女は、なかなかいい身体をしていますね。うまそうな女というのは貴女のことだ。ちょっとこっちへいらっしゃい。誰も居ないから、大丈夫です」帆村はそういって、腰をうかすと、いきなり風間光枝の手首を握って、ひきよせた。
「まあ、先生」光枝は、愕きのあまり呼吸が停りそうになった。ここへ来る前、星野社長はわざわざ、帆村の潔癖《けっぺき》を保証したが、その話とはちがって、彼はとんでもない痴漢《ちかん》であった。六条子爵の場合よりも、もっともっと露骨《ろこつ》で下卑《げび》ている。光枝は、帆村と抗争《こうそう》しながら、そのとき脳裏《のうり》に電光の如く閃《ひらめ》いたものがあった。それは、傍《わき》の衝立《ついたて》の向うに、なにか手の放せない仕事をしているといった男のことを思い出したのだ。あの男は
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