ら、まあ!」光枝は、自分でも後《あと》で恥《はず》かしいと思ったほど、頓狂《とんきょう》な声を出した。なぜといって、帆村がさしだした三枚の細長い写真には、表情たっぷりな光枝の半身像《はんしんぞう》が五六十個も連続的にうつっているのであった。それは正面と横とが同時にとれていた。よく見るとなんのこと、それは今しがたこの部屋に入って、この椅子に腰を下ろすときから始まって、終りのところは、すこし睡《ねむ》くなって口をあいて欠伸《あくび》をするところまで、いやにはっきりととれていたのであった。
「あら、まあ。あたくし、どうしましょう」風間光枝は、もう一度愕きの声を発した。
「きょう試験的に、この写真機を取付けてみたんです。ちょっと貴女《あなた》を材料に使ってみましたが、なかなかうまく撮《と》れる。一分間に六十枚まで撮れます。一つのレンズは、正面にあって、あの厚い辞書の中にあります。黒い紗《しゃ》のきれが前に貼ってあるから、こっちから見ても分りません。もう一つのレンズは、そのカレンダーの下の方に黒い波がありますが、そこに窓があいていて、扉の向うから撮るようになっている。いや案外簡単なものですよ」

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