かめると、つと木彫の日光陽明門の額の前に近よった。そもそも、この額一枚が、あの大花瓶の破壊以後に位置の変化をやった唯一の品物なのである。この額に、なにか重大なる意味がひそんでいるのだ。それは一体なんであろうか。
 伸びあがって光枝が見ていると、その額はずいぶん大した彫物細工《ほりものざいく》であった。額の奥から、一番前に出ている陽明門の廂《ひさし》まで、奥行《おくゆき》が二寸あまりもあって、極めて繊細な彫《ほり》がなされてあった。これはよくある一枚彫なのであろうが、このように精巧緻密《せいこうちみつ》なものにはじめてお目にかかった。
 だが、彫を感心しているばかりでは仕方がない。なにかこの額に関して秘密があるのである。それはなんの秘密であろうか。
「ああ、もしかすると……」そのとき光枝の頭に閃《ひらめ》いたのは、この部厚《ぶあつ》い一枚彫の陽明門が、じつは一枚彫ではなくて、陽明門のあたりだけが、ぽっくり嵌《は》めこみになっているのではあるまいか。そしてそれを外すと、この額が実は一つの箱になっている。つまり秘密の隠し箱である。
「きっと、そうかもしれないわ」光枝はそれをたしかめるために、
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