で、矢庭《やにわ》に退場を命ぜられるとは、このとき旦那様の胸に往来するよほどの不安があったものらしい。その不安とは?


   中間報告


 光枝は、かねて帆村との約束で、大花瓶破壊事件の騒ぎが一通りかたづくと、その足でハガキを出しに屋敷を出た。彼女がポストに近づいたとき、ポストの向うから、
「やあ、だいぶん涼《すず》しくなりましたねえ」と声をかけたものがある。もちろんそれは帆村荘六だった。光技は、どぎまぎして、
「あら、まあ先生」と叫んだ。
「さあ早いところ伺いましょう。もう大花瓶を壊したんですか」
「あら、早すぎたかしら」
「そんなことはありません。大いに結構です。ところで貴女は探偵だから分るでしょうが、あの大花瓶を壊されてから主人公は、なにか室内の什器《じゅうき》の配置をかえたということはありませんか」
「あーら、先生は都合のいいときばかり、あたくしを探偵扱いなさるのですね。そんな勝手なことってありませんわ」と、やりかえしたが、心の中ではいよいよ事件の核心にふれてきたんだわと光枝はひそかに胸をどきどきさせた。
「そんなことはどうでもいい。あとで皆一つに固め貴女の抗議をうけること
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