にして実は指先でちょいとついたのだった)、たちまち旦那様をベッドの上から下へ顛落《てんらく》させたのだった。
「わーあ、な、な、なにごとじゃ」
「どうもすみませんでございます」
「おお、ギンヤか。なに、灰皿を壊した。朝っぱら大きな音をたてちゃ困るね。わしはこの節《せつ》、心臓がすこし弱っとるんで、物を壊してもなるべくしずかにやってくれ」そういって、旦那様はまたベッドにもぐりこんでしまった。光枝が見ると、旦那様は、壁の方に向き伏して、その大きな肉塊《にくかい》が、早いピッチでうごめいているのを認めた。
「あんた、なんか業病《ごうびょう》があるんじゃない。だって指先に一向力がはいらないじゃないの」責任者のお紋《もん》というのに、光枝はたっぷり皮肉《ひにく》をいわれた。
「病気なんてありませんけれど、あたし、そそっかしいのですわ。これから気をつけます」
「そそっかしいのも、病気の一つだよ。子供じゃあるまいし、十六七にもなって――ちょいとお前さん、年齢《とし》はいくつだっけね、わたしゃ洋装の女の子の年齢がさっぱり分らなくってね」
「あら、いやですわ。あたし、もっと上ですわ」
「じゃあ十八てえと
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