壊すことは、案外気持のいいことである。もちろん物資愛護《ぶっしあいご》の叫ばれる現下《げんか》の国策に背馳《はいち》する行為ではあったが、しかし光枝の場合は、壊すための理由があった。つまりそれは、帆村探偵から頼まれて、なにかの事件解決のためやっていることゆえ、国策に背馳するものだとはいえない安心があった。すなわち、がちゃーんの音を聞く瞬間、光枝の胸の中に鬱積《うっせき》した不満感といったようなものが、一時的ではあったが、たちまち雲散霧消《うんさんむしょう》してしまうのを感じたことであった。
だが、なにゆえに、什器破壊作業をやらなければならないか、その理由の本体《ほんたい》については光枝は何にも知らなかったし、なんにも思い当ることがなかった。
犠牲《ぎせい》の大花瓶《おおかびん》
小間使ギンヤの什器破壊作業《じゅうきはかいさぎょう》は、その第二日にいたって、俄然《がぜん》猖獗《しょうけつ》を極《きわ》めた。まず起きぬけに、電灯の笠をがちゃーんとやったのを手始めに、勝手元ではうがいのコップを割り、それから旦那様の部屋にいって灰皿を卓子《テーブル》のうえから取り落し(たこと
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