応して駆けつけたのであった。
「うううう、なんだギンヤがやったのか」
 ギンヤ――というのは、銀やと書くべきか銀弥《ぎんや》と書くべきか、よくわからないが、ともかくもこれがこの邸《やしき》における風間光枝の源氏名《げんじな》であった。――旦那様は、呶鳴《どな》りつけるつもりだったらしいが、新任の楚々《そそ》たるモダン小間使のやったことと分ると、くるしそうにえへんえへんと咳《せき》ばらいをして、早々《そうそう》奥へひきあげていった。その代り、他の雇人隊が、口を揃えて光枝の不始末《ふしまつ》を叱りつけ、があがあぶつぶつはいつ果《は》つとも見えなかった。するとまた、奥の方からずしんずしんどんどんと、旦那様の豪快なる跫音《あしおと》が近づき、
「こりゃ、いつまでも騒々しいじゃないか。壊れたものはしようがない。早く片づけて、しずかにしろ。このバルシャガルどもめ!」なにがバルシャガルどもめか、なにしろこの旦那様のいう言葉の中には、時として訳の分らない言葉がとびだす。
 とにかく、ギンヤこと風間光枝の什器破壊業《じゅうきはかいぎょう》の店開きは、こうして行われた。
 そのとき光枝が感じたことは、物を
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