こ?」
「ほほほほ、ほんとはもう一つ上の十九ですけれど」と、光枝は嘘をついた。
「へえー、お前さん、十九かい。まああきれたわね。わたしゃ十六七とばかり思っていたよ。じゃあもう色気《いろけ》もたっぷりあって――旦那様もなかなか作戦がしっかりしていらっしゃるわね。へえ、そうかい、十九とは……」お紋は、ひとりで感心していた。
「あのう、うちの旦那様の御商売は、なんでいらっしゃいますの」
「ああら、あんたそれを知らないで来たの」
「ええ」
「ずいぶん呑気《のんき》な娘ね。知らなきゃ、いってきかせるが、うちの旦那様はやま[#「やま」に傍点]を持っていらっしゃるのよ」
「え、やま[#「やま」に傍点]? 鉱山《こうざん》のことですの」
「そうそうその鉱山よ。金銀銅鉄|鉛《なまり》石炭、なんでも出るんですって。これは内緒《ないしょ》だけれどね、うちの旦那様は、お若いときダイナマイトと鶴嘴《つるはし》とをもって、日本中の山という山を、あっちへいったりこっちへきたり、真黒になって働いておいでなすったんですとさ。つまり、鉱夫をなすっていらっしゃったのよ。そんなこと、わたしが話したといっちゃいやーよ。わたしゃお前さんが好きだからおしえてあげたんだがね」お紋は、ふふふふと鼻のうえに皺《しわ》をよせて気味のわるい笑い方をした。
(鉱山|成金《なりきん》だったのか?)帆村探偵ときたら、仕事を自分に頼んでおきながら、これから働かせる家の主人公がなにを商売にしているかも教えなかったんだ。お紋がこれだけ喋《しゃべ》れば、もういい。帆村探偵なんか、間抜けの標本みたいなもんだと、光枝はひそかに鼻を高くしたことだった。
だが一体、鉱山業のこの家の主人公と、そして帆村が苦心しつつある探偵事件と、どういう事柄によって繋《つな》がっているのであろうか。それについて光枝はすこしの手懸りも持ち合わせていなかったが、彼女も女探偵のことであるから、この興味ある事実をそのうちにきっと探し当ててみせるぞと、心の中で宣言したことだった。
こうなれば、早い方がよかろうと思って、光枝は帆村から頼まれた大花瓶を、その日の午後、見事にがちゃーんと壊してしまった。なにしろ旦那様の居間は、床が煉瓦で敷いてあったから、下におとせば必ず失敗の虞《おそ》れなく完全に壊れてしまうのだった。もっともその煉瓦のうえには、立派な絨緞《じゅうたん》が
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