に傷をしているのですからね」老人は、かすかにうなずいた。
「さあ、これからどうしたらいいか。ぼく、山を下りて、誰かを呼んで来ますから、苦しいでしょうが、しばらくがまんしていて下さい」
そういって春木は、老人のそばから立ち上って、ふもとへ走ろうとしたが、そのとき、老人が一声高く叫んだ。
「お待ち」
「えッ」
「そばへ来てください」
「なんですか。そんなに口をきくと、また血が出ますよ」
春木は、老人のそばへ膝をついた。
「もう、もう、わしはだめだ。あんたの親切にお礼をしたいから、ぜひ受けて下さい。今、そのお礼の品物を出すから、ちょっと、横を向いて下され」
「お礼なんて、ぼくは、いいですよ。大したことはしないんだから」
「いや、わしはお礼をせずにはいられない。それにこのまま、わしが死んでしまえば、莫大《ばくだい》なる富の所在《ありか》を解《と》く者がいなくなる。ぜひあんたにゆずりたい。あんたは、何という名前かの」
老人は、苦しそうにあえぎ、赤い泡をふき出しながら、少年に話しかける。その事柄は、真《まこと》か偽《いつわり》かはっきりしないが、とにかく重大なことだ。
「ぼくは、春木清《はる
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